-第32回日本睡眠学会にて発表-

 味の素株式会社(社長:山口範雄 本社:東京都中央区)は、アミノ酸“グリシン”が、末梢血流を増加させ熱放散を促し、睡眠と関係が深いとされる深部体 温(体の中心部の温度(直腸内温度))を低下させることで、睡眠の質向上に関与していることを確認しました。また、睡眠妨害条件下(※2)のラットにおいて、グリシン摂取が、ノンレム睡眠時間を増加し、深い睡眠の比率が向上することを明らかにしました。

 グリシンは生体内で合成される非必須アミノ酸の1つであり、通常1日あたりのたんぱく質から3~5g摂取しているといわれています。また、神経系ではグリシン受容体へ作用する神経伝達物質としての機能を持つことも知られています。これまでに、ピッツバーグ睡眠質問表(PSQI)(※3)のスコアが8以上である睡眠に軽度の問題を有するヒトで、就寝前に摂取したグリシンが主観的な睡眠を改善すること、また徐波睡眠潜時(※4)を短縮することを報告しました(Yamadera et al.; 2007(※5))。

 今回、このグリシンの作用機序を解明するため、睡眠との関係が深いとされる深部体温と末梢血流に対する作用研究をラットとヒトで行ない、グリシンの睡眠 時深部体温低下作用と、それにともなう放熱亢進作用を確認しました。また、睡眠妨害条件下ラットを用い、グリシンにヒトと同じような睡眠改善効果があるか どうかを検討しました。これらの研究成果は、2007年11月7日から開催される、第32回日本睡眠学会で発表する予定です。

(※1) グリシンは、筋肉や皮膚など体を構成するアミノ酸の一つで、体内でつくられる非必須アミノ酸です。ホタテやえび等の食品に多く含まれています。

【研究発表の要点】
入眠時に深部体温が低下することが知られています。この深部体温の低下の度合いが急であればあるほど速やかな入眠が得られることも知られています。今回当 社の研究結果より、ラットにおいてグリシン投与により、速やかに深部体温が低下すること(図1)がわかりました。また、同時に足裏の表面血流が増加した (図2)ことから、深部体温の減少は表面血流の増加による熱放散によるものだと考えられます。

 
図1:深部体温の変化

実験にはラットを用いた。グリシン、溶媒(対照群)は、図中の矢印(0分)で経口投与した。投与時の深部体温との差を縦軸に、経過時間を横軸にとった。
グリシン投与後1時間まで深部体温は対照群と比較して有意に減少した。また、投与160分以降においても、グリシン投与群において深部体温の有意な減少が見られた。
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図2:足裏の表面血流の変化

実験にはラットを用い、麻酔下で行った。
グリシン、溶媒(対照群)は図中の矢印(0分)で経口投与した。投与前15分間の足裏表面血流の量を100%とし、表面血流の変化を%で表した(縦軸)。また、経過時間を横軸にとった。
グリシン投与30分後より足裏血流は対照群と比較して有意に上昇し、15分ほど持続した。
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 次に、スリープクリニック調布(遠藤拓郎院長)との共同研究により、ラットで起こった深部体温の減少がヒトでも起こるかどうか確認しました。
  健常なヒトボランティア10名(男性3名、女性7名、20~57歳)を対象とし、二重盲験クロスオーバー試験を実施しました。試験日夕方に直腸、手の甲、 額、足の甲に温度測定用プローブを装着し、就寝2時間前にグリシン食(グリシン3gを含む)またはプラセボを摂取していただくと、グリシン摂取時には就寝 4時間後に直腸温(深部体温に相当)がプラセボ摂取時に比べ有意に減少し、3時間持続しました。(図3)同時に足の甲の表面温度が増加したことから、体表 からの熱放散が深部体温の減少に寄与していることが示唆されました。

 
図3:ヒト直腸温の変化

グリシンまたはプラセボを0分で摂取し、図中の矢印(120分)で床につかせた。
縦軸に(グリシン摂取時の直腸温)-(プラセボ摂取時の直腸温)をとると、グリシン摂取6時間後に直腸温は有意に減少し、約3時間持続した。
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 一方、大阪バイオサイエンス研究所(分子行動生物学部門 裏出良博うらでよしひろ研究部長ら)との共同研究により、睡眠に軽度の問題を有するヒトの動物モデルとしてラットで睡眠妨害条件を作り出し、この条件下においてはラットのノンレム睡 眠量が減少することを確認しました。そこで、このモデルで明期におけるラットの脳波と筋肉の動きをモニターする筋電位を測定し、睡眠の有無およびその状態 をモニターすると、ノンレム睡眠(深い睡眠)量がグリシン投与群で増加しました。(図4)
 そして、そのときの脳波を詳細に解析することでデルタ波(δ波:深い睡眠時に現れる低周波数の脳波)の中でも低い周波数領域が、グリシン投与群で有意に増加しました。(図5)

 
図4:睡眠妨害条件下における睡眠量の変化

ラットの脳波と筋電位の測定を行い、睡眠ステージの判別を行なった。この状態でグリシンを投与すると投与2時間後の覚醒量がグリシン投与群で有意に減少し(1、2g/kg投与群)、ノンレム睡眠量が有意に増加した(0.5、1、2g/kg投与群)。
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図5:ノンレム睡眠中の脳波の周波数解析

図3で得られたノンレム睡眠時脳波の周波数解析を行った。
脳波は、周波数が低い帯域が多いほど眠りが深い、つまり質の良い睡眠が取れているといわれている。
低周波数の領域においてグリシン投与群(1g/kg)で強度が有意に上昇した。
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 これらの結果から、グリシン摂取により、覚醒量が減少してノンレム睡眠量が増加し、深い睡眠が増え、質の良い睡眠がとれたものと考えられます。
 グリシンの睡眠に対する改善効果がラットとヒトで確認され、既に報告しているヒト試験の結果と矛盾の無い結果であることが示されました。

【まとめ】
 今回の結果から、ヒトで示されたグリシンの睡眠改善作用がラットでも再現でき、ヒトとラットで深部体温の減少と表面血流の増加が睡眠改善作用に寄与して いることを示すことができました。今後はラットを用いて更なるメカニズム探索研究を行なっていくと同時に、睡眠により二次的に改善する可能性のある肌質な どについてもヒトでの研究を行っていきたいと考えています。

【参考1:論文データ】

(※5) Glycine ingestion improves subjective sleep quality in human volunteers, correlating with polysomnographic changes Yamadera W, Inagawa K, Chiba S, Bannai M, Takahashi M, Nakayama K Sleep and Biological Rhythms 2007; 5: 126-131

Subjective effects of glycine ingestion before bedtime on sleep quality Inagawa K, Hiraoka T, Kohda T, Yamadera W, Takahashi M Sleep and Biological Rhythms 2006; 4: 75-77

【参考2:用語の説明】

(※2) 睡眠妨害条件
ラットを眠りにくくさせた状態。具体的には実験直前にラットに脳波測定ケーブルを装着し、床は幅の広いグリッドとすることなどで眠りにくい条件を作りだした
(※3) ピッツバーグ睡眠質問票
ピッツバーグ大学精神科教室で開発された自記式の睡眠の質および睡眠障害を評価する質問表。
1ヶ月間の睡眠の質について評価できる。総合評価点が算出でき、高い信頼性が得られている。
(※4) 徐波睡眠潜時
床についてから、徐波睡眠(深睡眠とも言う、深い睡眠のこと)になるまでの時間。

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